2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

何を連れて

昔、逢った人の話をします。独り言みたいですが。 夫の伯母さんはどんどん店の立ち退いていった都心の一角に居を構えて いました。 はじめて訪れた時、このような場所にこのような古い作りの平屋がある ことに驚きました。 日本家屋に洋風の暖炉のついた応接…

夏音(カノン)

同じ方を向いて 同じ曲を 聴いている 近い人は 途中で急に 居住まいを正し 一つの旋律だけを 追いもとめ始める 退屈そうな素振りの下の それは いかなる形の 欲望なのか あなたの腕の産毛と 触れ合いそうにちかく それでいながら その中心に 接することを憚…

河口にて

海におりる坂道は風が吹いているから 潮のかおりがするから 遠い人 忘れ去りたい人の 記憶は途切れていく 海に入る階段は暗くて悲しいから 夢の覚め際のように覚束ないから いっそ冷たさばかり纏いつづけたい 狂っているよ と呼びかける声が さっきまで絶え…

日食

はるか昔の学生時代、上代文学専攻でした。 リハビリ気分の怠け者学生だったので、現代は重い、中世は怖い…と消去法で 残ったのが上代だったというあるまじき理由です。 そんなお馬鹿さんに、萬葉集のゼミというのは、解釈以前に「まず類歌を挙げて もらおう…

帰ってきた息子が「外に虹があるから」と言うので中庭に出たら 久しぶりに大きな虹がありました。 何人か先客がいて一緒に消えるまで眺めました 丁度いい夕刻の走り雨だったから 大勢の人が眺めたと思います 泪が零れている時のあいだは / 孤りでいても 鏡に…

海のない品川

わざわざ古布を買って 切り刻んで ならべて ちくちく縫って また布にする なんて 馬鹿なことを しているのだろうって思うのよ とパッチワークが趣味の 友人は言う それを言うなら 陳列された素直な枝や こいつなら従いそうだと思う 野性の枝をえらんで 活け…

屋上病

「屋上病ですね」と医師らしき人は言うのだった。 「あなたは屋上から眺める欲求をどうすることもできないのでしょう? こうしている今でも屋上に行きたいのでしょう? そのために生活に支障をきたしているのでしょう?それは屋上病です」 別にそんな病名を…

送り梅雨

ねじ花やつゆ草やホタルブクロのあった丘に 濡れてはりついている新聞紙 射撃場では歩哨のように立つ人が 雨の帳を横切る人に 照準を合わせかねている あれは教会の裏だっただろうか 雨の降るいつかの夜に 「容」という文字のことを考えていたことがあった …

島のお話

「お父さんは島のお墓に入りたかったのかもしれないけれど でも島の人たちはどうかしら?お父さんが思うほど思っているかしら?」 ここ数ヶ月何度も母から聞いたことば どちらかというと唯物論的な考えの持ち主のように見えて(見せて?)いた父は 自分の墓…

荒地の恋

半年ぶり位に本を読んだので印象だけの感想荒地の恋作者: ねじめ正一出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/09/26メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 50回この商品を含むブログ (32件) を見る荒地の人たちの名前を知ったのは父親の本棚の戦後詩の選集だっ…

海開き

海の近くのその街に住んでいたとき 地元の人たちはこれから来る季節をちょっと忌々しそうな感じで 受け入れているらしかった 一歩外に出るとサンタンオイルの匂いが空気の底に沈んでいる季節 迷路のような小路に車がはまり込んで○○地獄と言われるような街 遠…

さよならを言い忘れる

庇から落ちた雨粒が 沓脱石をくぼませる 大事に封印して 損なわれないまま 灰にして 遠い気配とともに 纏わり付かせておきたいもの それは 寝苦しい夜に 動いていた心臓のようだったり 裏切った人の泣きそうな顔だったり 棺の蓋に最後の釘を打つために 長い…

7月

クチナシってどうしてこんなに汚くなってしまうのでしょう? 夢を見た 梅雨の晴れ間の空を見上げると クチナシのような純白の花びらが一面に舞っている 青い空に映えてとても美しい 宗教画か何かの背景のように見える だんだん高度を下げてきたそれらは 小さ…