2012-01-01から1年間の記事一覧

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空庭

岩の戸のずれてなにかが思い出になりゆくときのかすかな流れ

崖線

すこしだけ古い景色を見せながら咲く花を見て越えたのでしょう (摘みたかった花がまだ揺れている)

雨を知る人

閉じ込めた色の記憶をやわらかく裏切りながら降るこれはなに? 私以外のだれかが知らない間に検閲、推敲してくれたのでは ないかと思うような夢でした。

夜にひろがる

海中の山の一部を浮き島と呼び慣らわせるわれらの夕餉 呼気ひとつ夜に逃がせば手に触れる結露の窓の先の頁が

11月

水のちかくを あるきながら ポケットに手を入れたら なにからも遠い時計が 入っていることに気づきました 11月の空にはすこし藁の色 多摩川の水はまるく それをとじこめていました そのみずのいろを 少しガラスにうつしとって 文字盤の下に 秘密をひとつ 落…

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雨夜

神無月 満ちゆくひとつの古語として雨夜は月をとおくにしまう

十月

秋の日が君の部屋にも鳥籠の影を届けにおりてくる午後

いきもの

ときおりは開いて見せてくれている光の入った悲しい箱を

地上へと帰還する背を見送って夜のしじまに眠るブランコ 夜の公園について知っていることはとても少ない。

片耳

風であり声なきものと風であり声あるものの逆巻く野分

鹿を盗む

一日中雨の降ったあと おびただしい雲の一片を意訳して 秋になりました 鹿を出し入れする窓から 鹿を盗みました だから もうその隔離小屋に 鹿はいません 人の行く大手町 舗道に並んで座って わたしはたぶんこの国で死ぬ人間よ と 自己紹介をする あなたはこ…

monologue

混んだ車内のどこかで こどもが声をあげて泣いていて乗り合わせた人がそれを聞いています みんな手元に目を落として ねえこども 泣いている足元だけのこして世界は崩れるねでも すべてが遠のいたあとに睫や蝶の脚くらい軽いものが 頬に触れてすこしだけ欠け…

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その風を主語としたのでいまここと告げる声だけ落ちてくる庭

ハンスの五番目のお話

マッチが自家中毒する ゆるく燃えながら 疲労しながら 解消されてしまうかなしみが かなしすぎるかなしみであることを かみさまが憐れんで?

秋に蝶がとぶ (loop)

泥のなかには光の粒子 一度として見たことのない過去を手にして ひんやりとして 雲の隙間に大切なものを差し入れて 一夜あけてその位置を観測する 雨音を包み込む草原は また別の雲の隙間に -----------なにかの拍子に雲が切れて全天を覆う コロン 雑踏の中…

二番目の月の夜

one sentence ごとに終局があって 意味もなく近くにある植物に触れました 植物に助けを求めたみたいでした

絵葉書

月がはっきりとしていく前の 僅かな時間に 銀色のものが靡く 白猫の毛や 白線 イネ科の植物の穂 残る筋雲 すこしずつはやく暮れていく空が 日々あたらしくひろがるように 遠くの悲しみしか悲しめない 悲しむ ということが ことばにすることだとしたら これを…

秋の最初の風

舟のかたちの雲を見ている釣り上げては放す記憶に釣り上げられて

潮さい2

現実の海まで行けば朝も水もすぐ近くまで遠のいている すぐそこまで寄せるのに帰れない波を 貝がながめているようでした

潮さい

「海」ということば一つに流れ去る 遠のくために重ねた景色

夜明けに立ちあう

夜が夜の場所にあるところから あるきはじめて うち消してきた とおい音 奥の方にある音に いつのまにかとり巻かれて 夜をわたる 越えなくてもいい夜が ひとつくらいあってもいいと (奥行きのない夜のふちです) 明け方に立ちすくむ人 あれは 空を見ている…

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森の石

薄底の靴をはいてでかけると 足裏に小石のかたちが触れてくる 夏日が真上から射して ここは以前は川底だったかしら? 流れた時間の痕跡 のような 触れれば痛い ちいさなかたち 帰って靴をぬいで それから 森のことを考える もうずいぶんながく行っていない …

記したものと 記す手前で閉じたもの かすかにささのはのさきに触れ合う

橋上の透明傘

雨はときおり落ちたけれど 雲は走っていた 七月に傘をひらく 七月に傘をひらくと 六月の傘のかげに 大半をあずけてきたことがわかる

暁の

あかつきの空の底は 途中まで歩けます おもい瞼をおいて 足だけが先にでかけてしまって 行きついた突堤にうずくまって 下からの声のない泣き声の反響に 耳をすましている 雲がめばえはじめるまでに追いつけば においのない花々 ゆるされてばかりいたことを …

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娘の年齢だけ住んでいるこのまちも ほとんど知りません 通過される街になって通過するものになっていると おおくのものに囲まれていても ひとと世界とを結んでいるのはほんの僅かなもののような 気がしてきます 大切な鳥を預かっておきながら死なせてしまっ…