2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

099:文(莢)

沈黙をくるんだ布に記された文字というこの賑やかな線

100:止(莢)

水栓を締めれば川から来た水が五センチ前で立ち止まり 夜。

完走報告(莢)

走り終えて、ほっとして、少しさみしい気持ちに襲われています。 ありがとうございました。

097:証(莢)

証するもの悉く塵にして風のありかを知らせる手紙

098:濁(莢)

濁さぬようにそっと渡って夢と知る朝は光がとてもさみしい

096:季節(莢)

透明な下書き線を見せるとき季節は人のいた場所のこと

095:例(莢)

明け方の窪地に水が湛えられ解体されていく比例式

094:衆(莢)

群衆の襟に小さな蜘蛛がいて「かえりみちをわすれた」という

091:鯨(莢)

八月に鯨がやって来るような記憶を持たない入江に眠る

092:局(莢)

昨日打たれた句点の在処を探そうとすれば非局所的俄雨

093:ドア(莢)

ドアーズをはじめて聴いた 曲線を大きな雲がゆく夏だった

広島県呉市倉橋島

087:餅(莢)

金髪のピアス少女が釣銭をお餅のような手で渡しくる

088:弱(莢)

弱音ペダルの付いた空です 呟きが溢れてだれも歌い出さない

089:出口(莢)

回転扉 反転扉 明るくて寂しい出口のこちらと向こう

090:唯(莢)

ポケットの中の唯一を確かめる仕草で煙草を吸うねあなたは

086:ぼんやり(莢)

影の中を小さな影が駈けていき夏の残りをぼんやりさせる

085:歯(莢)

夜の蝉 切れてしまった電球を振れば小さな歯の音がする

083:霞(莢)

新宿区歌坂逢坂霞坂すべては同じ坂だと思う

084:左(莢)

左岸には大葉子犬蓼蜻蛉草会うときは川を忘れておりぬ

082:柔(莢)

柔らかな線の思い出 封きれば文字のかたちに人の居た頃

079:悪(莢)

炎天に合歓の花咲く悪党は愛されないとなれぬ生き物 ※愛さなければ

080:修(莢)

蜘蛛の糸ゆるやかにはる 愚かなる修辞法にも朝のくること

081:自分(莢)

この丘から眺める自分は嫌い でもどこまでも雨上がりの世界

078:師(莢)

扇子を仕舞い一礼をして手妻師は紙に戻れぬ蝶々を連れて

077:うっすら(莢)

美しい遺棄の記憶をうっすらと浮かべて玉のような赤子は

076:納(莢)

空よりも納骨堂に降る雪の話を誰かしてくれないか

075:良(莢)

八月の朝に偶然居合わせたあなたにコップの水と良い日を