2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

遠く

072:産(莢)

訪れを待たない夢の白日にがらんと静まる産業道路

073:史(莢)

蝉時雨幽かに寄せて図書室の奥に傾く個人史の棚

074:ワルツ(莢)

夕闇にワルツの流れる庭園で重たい花が遅れてひらく

071:得意(莢)

虫の名を答えるときの得意げな顔を見たくて何度も聞いた

070:柿(莢)

柿の木に戻った君が薄い葉で囲うそばから揺れ落ちる雨

069:視(莢)

視るものは視られる夜の鏡台の裏から不意に手を取る者よ

067:闇(莢)

日ざかりの街 人はみな暗闇を瞼に入れてゆっくり運ぶ

068:兄弟(莢)

外は夕立 古い毛布にくるまった ああいつからかいない兄弟

061:獣(莢)

獣は帰り 時計は午後の舟となり 小さな叫びを眠らせている

062:氏(莢)

どの貝もらせんを持つしどの村もK氏が宿にたどりつく夜

063:以上(莢)

死者以上であるかのごとく振舞えばただ下がりゆくばかりの水位

064:刑(莢)

ときおりは何かの刑で犬であり私であるかのように連れ立つ

065:投(莢)

ただ数を数えたくなる 水切りの石を遠くに投げてください

066:きれい(莢)

思い出がきれいに澄んでいきそうで草を千切ったあとの爪の香

060:何(莢)

笹の葉が風を姿に変えていく 何時しか低くなった軒先

059:永遠(莢)

水甕を覘きこむたび永遠が羽ある種子のように降る町

055:駄目(莢)

駄目なまま眠れと雨と梔子が生まれる前の夜を連れてくる

056:善(莢)

首都湿度80%の谷底を善人尚もてスクランブルに

057:衰(莢)

裏返し意味とかたちを合わせては手放す神経衰弱みたいね

058:秀(莢)

回廊に電信柱の影が立つとても秀れた道標として

053:受(莢)

衛星がノイズの帯を抜けながら受信している雨の気配は

054:商(莢)

商よりも余りの大きな割り算=雨の匂いであける七月