2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

翳の色

生まれれば封じるものひとつひとつ繭玉のごと足元に落つ 質量なき冥さは上弦の月を呑み今は下弦の月が吊られる かなしみの発芽せぬ枝ことごとく手折りて雨に打たせたる場所 かつて聴いていた曲を聴いて「記憶の中にあるものはすべてここにはない」 と思って…

夜空

どの空もどこかの井戸で水を汲む音のみ探す息をひそめて

海泡石

石は 3 その石は白い とても軽くて 持っているかんじがしない その石は水に浮く 繊維状の結晶が複雑に交差する 中に 空気を内包して (人になる代償に声を失ったその人は海の泡) 今日も東京は 透明な砂州のようなものが空にあらわれて 水は低い位置におりて…

箱崎

水没した地下書庫の 天井で 羽化した蝶が 12階の非合法の温室まで たどり着くための 裏階段が このビルにはあるのです という話を 1階のホールで なかなかこない エレベータを待ちながら 聞いていると 足元が揺らいで ハンカチが一瞬被せられた と思うと ビ…

流れ着くもの

天磐樟船(あまのいはくすぶね)に載せて、風の順(まにま)に放ち棄つ*1 形のあるさみしさは 手の届かないよう沖に沈めた それから夜毎に 沈黙が満ちてくる わたしからわたしを守るなどという 馬鹿げたことに夜を費やしていたわたしの前の 怖れと安堵のつり…