流れ着くもの

                        
                   天磐樟船(あまのいはくすぶね)に載せて、風の順(まにま)に放ち棄つ*1



形のあるさみしさは
手の届かないよう沖に沈めた
それから夜毎に
沈黙が満ちてくる
わたしからわたしを守るなどという
馬鹿げたことに夜を費やしていたわたしの前の
怖れと安堵のつりあった
春の手前のこの静けさは
誰が何と言おうと
あなたがくれたものです



朝に波打ち際をあるくと
毎回かならず打ち寄せられるものがあった
釣り糸や浮きの絡まった
黒々とした海藻の大きな塊だったり
渡りに耐えられなかった鳥や
深海からはこばれてきた魚のからだの一部だったり



たとえどれ程変わり果てた姿で
荒れ果てた浜辺に打ち上げられたとしても
漂着ということばにはどこか
あこがれに似た安息の響きがある
おびただしい貝の残骸にまじって
淡い光を閉じ込めている
磨耗したうす青や緑の硝子 陶器の欠片
恐怖に駆られていては
決して見つけられない
小さな意味のない人工物



頂いたものには遠く及ばないけれど
遠い場所から季節へと 戻ってくる眠りには
そういうものを返したい
私のまわりに
汚染されていない
うつくしいと思えるものは
そんなものの中にしか
見当たらないような気がして



(汚染されていない手で 
 拾い 渡されるべきではないかと 
 沖を見ながら思いますが)




*1:紀巻1