2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

薄い一枚の光

ゆるやかに さくら くら より はなれるを 私は生のうちがわにゐて

031:はずれ(莢)

薄く水のはられた空がひそやかに冬のはずれで祝われている

028:幾(莢)

いつの日か記憶の中で幾度でも紙飛行機を飛ばしてみせて 雨粒の速度のような悲しさが舗道を過ぎて幾千の跡

029:逃(莢)

眠りに私を落とすと思い出は波紋のように逃げて静まる

030:財(莢)

足りないものはなくて何かが多すぎてレシートは財布の中で掠れる

026:期(莢)

その庭に期限を過ぎて返された空をどうにか貼ろうと思う

027:コメント(莢)

海月より魚 それより水底の貝にコメントしたい(されたい)

020:嘆(莢)

蝋石で暗渠の上に絵を描く子 嘆きの川からすこしはなれて

021:仲(莢)

星ぼしが仲違いする夜なので子猫も鳥もおもてを見ない

022:梨(莢)

梨の実をありの実と言うようにして冥府の際を跨ぐためらい

023:不思議(莢)

渡る鳥だけが不思議と知覚する郷愁に似た風の信号

024:妙(莢)

声帯を出ればくるしい意味としてときに妙なる歌として 息

025:滅(莢)

自らを巻き戻してはかなわずに春は滅びる滅ぼしながら

014:更(莢)

終点の冬の梢は過ぎたのに更に流れるものある不思議

015:吐(莢)

暗がりの金魚の吐息 雛飾り たずねた家の匂いのように

016:仕事(莢)

年に一度負債を返しているように木々はいそしむ春の仕事に

017:彼(莢)

ここはそこ彼方はここに幾重にも遠回りして野原を逸れる

018:闘(莢)

無人の待合室の水槽の闘魚の鰭よりつたうさざなみ

019:同じ(莢)

水底に光ひろがるあきらめに似て私達は少しく同じ

008:瞬(莢)

瞬きのたびに光をとりこんで春の迷路を作ってしまう

009:テーブル(莢)

テーブルのはずれは深い谷でした落とした音符が小さく見える

010:賞(莢)

夢もみず寝たのでこれを賞します春一番の嵐のあとに

011:習(莢)

いままでに習っていない感情がひたすら三月の電線を揺らす

012:わずか(莢)

わずかずつ私を手放していくことがいつしか嘘になる水の夕

013:極(莢)

ビル街の風聴く耳にN極のほうから小さな流氷が届く

006:券(莢)

空に水忘れなければ見出せぬ鞄のポケットの中の半券

005:叫(莢) 

春の海ひねもす淡くひらかれるどこかに魚の叫ぶ領域

004:やがて(莢)

やがて海やがては空に還りつく淡雪という影の別名