2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧
ゆるやかに さくら くら より はなれるを 私は生のうちがわにゐて
薄く水のはられた空がひそやかに冬のはずれで祝われている
いつの日か記憶の中で幾度でも紙飛行機を飛ばしてみせて 雨粒の速度のような悲しさが舗道を過ぎて幾千の跡
眠りに私を落とすと思い出は波紋のように逃げて静まる
足りないものはなくて何かが多すぎてレシートは財布の中で掠れる
その庭に期限を過ぎて返された空をどうにか貼ろうと思う
海月より魚 それより水底の貝にコメントしたい(されたい)
蝋石で暗渠の上に絵を描く子 嘆きの川からすこしはなれて
星ぼしが仲違いする夜なので子猫も鳥もおもてを見ない
梨の実をありの実と言うようにして冥府の際を跨ぐためらい
渡る鳥だけが不思議と知覚する郷愁に似た風の信号
声帯を出ればくるしい意味としてときに妙なる歌として 息
自らを巻き戻してはかなわずに春は滅びる滅ぼしながら
終点の冬の梢は過ぎたのに更に流れるものある不思議
暗がりの金魚の吐息 雛飾り たずねた家の匂いのように
年に一度負債を返しているように木々はいそしむ春の仕事に
ここはそこ彼方はここに幾重にも遠回りして野原を逸れる
無人の待合室の水槽の闘魚の鰭よりつたうさざなみ
水底に光ひろがるあきらめに似て私達は少しく同じ
瞬きのたびに光をとりこんで春の迷路を作ってしまう
テーブルのはずれは深い谷でした落とした音符が小さく見える
夢もみず寝たのでこれを賞します春一番の嵐のあとに
いままでに習っていない感情がひたすら三月の電線を揺らす
わずかずつ私を手放していくことがいつしか嘘になる水の夕
ビル街の風聴く耳にN極のほうから小さな流氷が届く
空に水忘れなければ見出せぬ鞄のポケットの中の半券
春の海ひねもす淡くひらかれるどこかに魚の叫ぶ領域
やがて海やがては空に還りつく淡雪という影の別名