monologue
混んだ車内のどこかで こどもが声をあげて泣いていて
乗り合わせた人がそれを聞いています みんな手元に目を落として
ねえこども 泣いている足元だけのこして世界は崩れるね
でも すべてが遠のいたあとに
睫や蝶の脚くらい軽いものが 頬に触れて
すこしだけ欠けた世界の はじめることだけが残された地点に
戻ることを 促してくれる
そんな軽くて失いそうで 触れて確かめずにいられなかったもの
いまはなくしてしまったかどうかもわからない そんなものの
なまえを知りたい
こども時代に不幸だったかどうかは いまだにわからないけれど
受け入れるしかなかったものは少しだけあって
とおくの廃園のような庭にでかけて そこから雲を眺めるようなことをした
いつかは消えるとずっとおもっていた 飛び地のようなその庭の
なまえを知らない