鹿を盗む


一日中雨の降ったあと
おびただしい雲の一片を意訳して
秋になりました



鹿を出し入れする窓から
鹿を盗みました
だから もうその隔離小屋に
鹿はいません



人の行く大手町
舗道に並んで座って
わたしはたぶんこの国で死ぬ人間よ と
自己紹介をする
あなたはこどもを産んだことがある? と
たずねてみたりする



本当はね 人は未来なんて
想像することはできないの
狭い窓枠を思い出したのか
鹿はとてもさみしそうな目をして聴いている
重い空気を湿った衣服ごと拭い去ってくれる
風にもたぶん歴史はないから



隣にいるものの遠くの不在
擬態の裾がひるがえりそうになるのを
鹿はそっと噛んでくれている
ごめんね どこに帰ろうか?
あなたを連れて






高齢のシカ失踪 岡崎・東公園動物園が被害届
2012年9月22日 21時22分
 22日午前7時30分ごろ、愛知県岡崎市欠町の東公園動物園で、シカ舎のニホンジカ1頭がいなくなっているのに男性飼育員(33)が気付いた。管理する市動物総合センターは、何者かに連れ去られた可能性が高いと判断し岡崎署に盗難の被害届を出した。園関係者は「シカは高齢で両目が見えず弱っていた。フェンスもあり、逃げ出したとは考えにくい」と困惑している。
 センターによると、いなくなったシカは推定15歳以上のメスで体重30キロ、体高60センチ。昨冬ごろから、元気なシカ20頭が入るシカ舎内の一角にある隔離スペースに別の2頭と入っていた。
 隔離スペースは20平方メートルほど。通路との間には高さ3メートルのフェンスと同2メートルのセンサー付きフェンスが二重にある。21日午後2時半に飼育員が餌をやった際は3頭を確認。鍵も掛けてあり、21日の閉園後から翌日朝までの間に警報装置に異常はなかったという。
 狩野弘生(こうせい)センター所長(53)は「何者かが隔離スペース前のモミジの木に登ってフェンス内に入ることも不可能ではないが、シカを盗む目的も手口も全く想像が付かない」と話している。
中日新聞