さよならを言い忘れる


庇から落ちた雨粒が
沓脱石をくぼませる



大事に封印して
損なわれないまま
灰にして
遠い気配とともに
纏わり付かせておきたいもの



それは
寝苦しい夜に
動いていた心臓のようだったり
裏切った人の泣きそうな顔だったり



棺の蓋に最後の釘を打つために
長い雨の通路を駆けてきた人