海開き


海の近くのその街に住んでいたとき
地元の人たちはこれから来る季節をちょっと忌々しそうな感じで
受け入れているらしかった
一歩外に出るとサンタンオイルの匂いが空気の底に沈んでいる季節
迷路のような小路に車がはまり込んで○○地獄と言われるような街
遠いクラクションと爆竹



それでも小さな漁港のある岬を越えたお隣の市の
袋小路の閉塞感を思えば
下流へと人が流れてくるような感覚は
結び目がほどけたみたいに私を楽にした
お年寄りもパステルカラーに半ズボンの街だったから
私もバリ島かどこかの数百円のわけのわからないワンピースで
小さかった息子と海にでかける          
              (地元の子はスイミングスクール)



あまり人のこない遊泳禁止の秘密の砂浜には
ある日は頭のない太刀魚
ある日はカモメの屍骸 と
毎回必ず非常に気がかりなものが流れ着いていた
息子は最初はこわごわ覗き込んでいたけれど
すぐに忘れて
波打ち際を走りはじめる
ゆるい波が引くと
現れる無数の貝の呼吸孔



はるか遠くまで行ってしまって
振り向きもしない
それを見るのはいいな
気がかりなものはとりあえず置いておいて



あきらめのように広がるはずの海に
江ノ島がひっかかっているのもいいな