夏音(カノン)


同じ方を向いて
同じ曲を
聴いている
近い人は
途中で急に
居住まいを正し
一つの旋律だけを
追いもとめ始める
退屈そうな素振りの下の
それは
いかなる形の
欲望なのか



あなたの腕の産毛と
触れ合いそうにちかく
それでいながら
その中心に
接することを憚る
なにかがある
静かに位置をずらし
周辺をさまよって
はじまりへむかい
その先へと遡る
もうひとつの
旋律を
追って



響きあうことから
逃げるような
これは私の欲望の形



あなたの名前を私は
古い歌からつけたけれど
その由来を告げることは多分無いだろう
どこかの支流でほんの僅かに
重なった音の記憶
それだけが全て
逆行するカノンに耳をすませて
さり気なくその背に手を置いて
音の無い虚空へと押し出す
許されたのか
拒まれたのか
かつて私がわからないまま
さまよい出たように


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音楽教師の友人の発表会に娘と
花束のセレクトを間違えたような気がする
なんだかヒマワリばかり