経由する川について



(ことばが困難なときのメモ)



郊外の空気は白く
冷たい果実のように 痛みから遮断されて
それでも乾いた小枝を踏み鳴らす音が
数日鳴り止まない
枯れた蔦の下がる集合住宅跡の
長い塀に沿って歩く
罅われたアスファルト 途切れれば
霞む電波塔
ひとつのことばにくくられるまで もうすこし
それに とまどって
付け足される形容詞
感傷的な分身が通り過ぎるのを見送ると
ゆっくりと回っていた世界が止まり
褪せた 背の高い草のむこう
有刺鉄線の綻びが見えてくる



沈黙はいつも
きこえない音楽を含んでいた
みえない光と色と
時間の底に
片耳をすましさえすれば
ねえきこえるでしょう?
遠い空き地を巡ってきたような



片耳の奥の すくいとれないメロディー
みえない人との連弾に
おくれて加わる時のように
軽く指を置く
たやすく断ち切られ
流れを変えてしまう川の
ゆるやかに下降する音の連なりに
最初の1音をのせる
私で汚していると遠くおもいながら
すべてをゆだねていく
その一呼吸で