犬の散歩中


マロニエとくたびれたハナミズキの街路樹を抜けて
夏の郊外駅の連絡通路をくぐる
明るくて 暗く 明るい 
古くからある民家の点在する丘陵地へ抜けると
赤土の庭に百日紅
くしゃくしゃに丸められた花紙のように
懐かしく日に褪せている色  扇情的な
そして芙蓉
ふわりとした花の雌蕊の先が
どれも折れ曲がっていて



夏芙蓉の花を見ると
中上健次のことを思い出します。
明るい 暗い 明るい
庭のトラックの轍と玄関の框


でも一番記憶に残っているのは
彼が地元で講演(公開講座?)をしたときに
聴衆であるお婆さんたちが
「健次の言ってることわかるか?」
「ちっともわからない。でも健次があんなに喋っているのだから
きっと大事な話なんだよ。」というようなことを土地の言葉で
小声で言い交わしながら
一生懸命耳を傾けていた というエピソードです。


(亡くなった時の特集かなにかで読んだのか、もう覚えていません。それなのに
 何故か小説ではなくてこの話を一番最初に思い出します。)