つぶやき的4

  • 歩道橋の上から 白い光の中 青い落ち葉と黒い枇杷の木のたわわさなどを眺めていると 耳元で羽音がたって またたく間に遠ざかっていく。広げられたもう一枚の空はいつも眼下にある。
  • 雨の降るいつかの夜は 容という文字について考えていた。漏刻という水時計についていつまでも間違った想像をしていた。
  • 私も話者である ということへの途惑いは、語らない 語れないということより、むしろ「ここ」から「そこ」へ移行していく過程で 全てその場に投げ出されているといっていいほど無頓着にことばにしてしまうところにあると思う。私のおろかさもかなしさも 手の届かない 手の施しようもない処で常にあからさまになっている。
  • 淋しいのは、いなくなったその鳥が戻ってくるように見えること。欠落はぬかりなく ことなるおもいで埋められてしまうこと。傾けられた水盤からいまにもこぼれそうでこぼれない そんな梅雨の空の下で 動かないひるがおの白や手のひらに乗るような小さな稲妻や少しだけ闇を重ねた夜や見えるはずのない有明の月を過ぎていくこと。すべてのことばが 愛する他なきものは何故これほどまでに強固なのか ということに帰してしまうこと。
  • 最後の話者について思う。もうひとりの自分やもういない人達や花や鳥や空と交わした声にならない最後の波を連れて帰っていった人のことを。
  • 言語を追悼するというのは 最後の話者が帰っていった湖のことを思うことかしら?
  • 波のように寄せては返していた。鳥も その言語でしか語られないものも 鳥の棲家も。