きさらぎ鳥

           Y研究室にて


石造りの古い建物に
どうしようもなく行きたくなるのは
いくら隔てられていても その中に
頬杖をつく場所が
おそらくあるからです



ほの暗い場所で
なにかを待っているように
二本脚でのびあがる
忘れられた
剥製の鳥がいて
その出来の悪い硝子の目に
私は何度目かの挨拶をする
     (こんにちは Rain maker)



元は白かった筈の
胸元の羽毛を眺めて
遠い場所に降る雨雪の香りを
思い起こそうとしてみます
     (こんな白さではないでしょうに)



きさらぎの雨や
雪のこと
あるいは
樹木や草花や
下降する単旋律のことを
思いはじめると
生まれる前に降っていた雨が
ここでは磨いても光らない鏡の中で
今でも降り続いているような気がして
あまりにも短時間に深く
凭れすぎてしまう



外は白い光が降り注ぎ
冬の日はいまごろ頭上にあるのでしょう
張り巡らされた鋼線の
断弦の気配が
建物のすぐ近くを
取り囲んでいて