すぐ横の彼方におく

木々のあいだの細い道を
歩いている私はなんなのだろう
木々の淡い木漏れ日をたよりに
歩いている私はなんなのだろう
やがてそれは長い森をぬけて




高い位置にある窓から
斜めに入る冬の日があって
頬杖をついて
雪を待つ剥製の鳥の前にいるわたしがいる
どこかで紙の焼かれるようなにおいが
今までいた森のかおりに交じり合って
ほんの一瞬の夢であったことに驚いた後
夢よりも下の階層に
沈む 安息でしょうかこれは?




覚えていないはしり続ける夢の総量に対して
それを認識することができる
人の生きる時間というのは
意外ととても短いのですね
経験すら
それ自体をとどめておくことは
不可能で
記憶の中でほどけては
結びなおされていく





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名を知るまでの花だけが
花であることを告げることのできる場所があります
羽ばたかないものは空を
歌わないものは静寂を
不在のものはそのまぼろし




流れながら流れるものを追い
あるときはとりこぼし
あるときは通過させ譜を流す
もしかしたら個が個のままに個と出逢えるのは
時間も空間も異なる流れの中で流れながら
偶然ひろった譜から誰かが旋律を再構築する
その瞬間にしかないのかも
知れないけれど




もしその場所にあなたが親しいなら
一瞬の中にしか予感できない永遠と
偶然の中にしか予感できない必然を
空の彼方に少しだけ遠ざけて
そ知らぬ顔で
少しだけ一緒に悲しんでほしい




遠くで鳴りやまなかった鈴の音が
淋しさであったことを知ったように
通過してきた森が
雨の通路であったことを
私が知るために