見失うこと


Miles Davis and the Modern Jazz Giants / Miles Davis (tp) Milt Jackson (vib) Thelonious Monk (p) Percy Heath (b) Kenny Clarke (d)



得意なことは思いつかないけれど、苦手なことというのははっきりしすぎています。
法律というのは人間同士の調停のための言葉であると思っていたけれど、それを利用
する人にとっては必ずしもそうではないらしいというのがわかりかけてきました。
そして私はいろいろなものを利用しているのに、なるべく利用だとは思いたくなくて、
しかもそれらを利用する人には嫌悪の情を抱くという身勝手で卑怯な奴なので、その手
の問題に関わると、いかに相手より先に自分に愛想を尽かさないかという (あまりに
子どもっぽくて馬鹿みたいなのでー以下略)



動画はThe Man I Love のTake 2。*1マイルスとモンクの喧嘩セッションとして有名な
ものです。ことの経緯はマイルスが「自分のバックでは鳴らさないでくれ」と言ったこ
とに腹を立てたモンクが自分のソロを途中でやめてしまった(実際10秒ちょっとの空
白があります)というもの。モンクという人は少ない音数で、一度聴いたら忘れられ
ないほど強烈に個性的な間のとり方、タイムのずらし方をする人なので、やはり音
数の少ないトランペットはやりにくいということだったのだと思います。でも喧嘩とい
うのはある種の「伝説」みたい。
(その後、共演はありませんでしたが、マイルスは自伝などで否定しています。)



聴いてみるとモンクの前のミルト・ジャクソンが音を散りばめたようなプレイをして
いて(名演!)モンクもそれに対して何か仕掛ようとしていた感があります(多分
引き算で)。そしてふっと見失ってしまったような感じでしょうか。ベースとドラム
は走っていて、このロストの10秒というのはとても長いなと思います。 
 (とてもとても身につまされます。私は何もしなくても位置を見失うので)
マイルスがトランペットで促した途端に、ちょっとらしからぬ感じでモンクが戻って
くるのも、喧嘩セッションと言われる所以なのかも知れません。



1954年のクリスマス・イヴにこの曲は収録されました。この音を出していた人達
が皆いなくなった今、「伝説」とさっと手を差し伸べてさっと手をとったみたいな音
の交差が残されていて、それをふと思い立って聴くことができるのは贅沢で幸
せなことだと思います。





*1:モンクの後のマイルスの最後のソロでは途中でハーマンミュートを朝顔部分に押し込むギュウって音が何故かしっかり入っていて、そこから音が変わるのも面白いです。