I'm seeing things.

......................................................................................遠近法




大切なものを落とした犬のように
流れの中に立っている
ここでは
聴くことはできても聞くことは困難で
見ることより見えることの方がはるかに怖ろしい



光の中
惨いものは常に手前を過ぎる
忘れられているときに最も滞りなく作動する
残酷な仕掛けがあるのだと思う 
白昼のオフイスで
来客の集うリビングで
夜のホームセンターの搬入口で
     (もしかしたら名前を変えて)



そこにいる以上
拒否したって無駄なことだよなどと言う
その声だけでも
私はどこか土のある遠い場所に連れて行って
埋葬したい



それでも本当に怖ろしいものは
距離のない遠く
二重にかかった虹の間の
それが本来の空の色だと
いうようなくらい部分にあって




......................................................................................鏡よ鏡




悲しみ とは名付けず
固有すべきであると
囁くこえがする
   (そんなことばがあるでしょうか?)
私のことばは
常にいくばくかを
とりこぼすから



あるいは
ことばにするというのは
その本質のいくぶんかを
社会に流してしまうことだから



子どもの頃
母の三面鏡で遊ぶのが好きだった
半分閉じて
上からのぞけば
私だけの秘密
透明な緑色の回廊が
ずっと続いていて



伝えようとすることは
自分を少し失うという代償を払うこと
そういうことではないかしら



そしてもし伝わってしまえば
見つめられれば見つめ返すしかない
怖ろしい世界が
おそらく果てまで続いている
これを幻覚と言えるでしょうか



欲しいのはあの
緑色に透き通っていた
古い光と
冷たい手
呼び戻す方法さえあれば