らんぶる・すくらんぶる

                朝の部屋
        

目の端に見慣れない卵が立っていて
手に取ればそこだけぽっかり穴が開いている
覗くべきではない
蝶でも魚でもない私が
私に命じる





自分を哀れむ涙でもいいから
泣いてみたくて
手に取った悲しみにすら
日常の死は紛れ込む
おがくずに紛れた蟻の屍骸のように





問題はこんなつまらないものを明日まで繋ぐ意味があるかどうかだけど


おそらくあるのだろう
それが責任のようなものであるにせよ





久しぶりの陽光が
空を隠す
「ある」ということに呪われるのは
「ない」ということに凭れすぎたからだ


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                     4時の4階




ただ流れていけばいいなら
場所はいらない
そのとき
何かである必要は無いので
私もいらない
そしてものがたりは何も見えなくする



見上げればまだ明るい
西の給水塔の方からつぎつぎに雲が湧いて
呆れるほど速く
風に流れていった



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私にできることは
経験すること 経験から逸れること
感じること  感覚を疑うこと
徹底的にものがたりを排除すること
もう現実が非現実に追いつこうとしている




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                     私有地






はじめて見る高い塀の向こう側は
幕間の開けたスロープだった
秋の草にまじって
季節はずれのつゆ草が揺れている
夕暮れ前の風に吹かれると
小高い山の麓の修道院へ続く細い道を
上っていった幼い頃を思い出す
あの頃からわたしの神様は
大きくて冷徹なまなざしのような存在だった
許されることなど考える余地もなく
膝を折るような



それでも
今渡っている吊橋を運良く渡りきれたら
私は火をつけて落としてしまうだろう
漆黒を灯りで汚し終えたら
世界がとても嫌がるような形で
きれいに許す方法を
考えてはじめてしまうだろう



つゆ草の青は
夜に溶けていく
帰りましょう とうながしたり
うながされたりする時間のあったことを
思い出さないわけではないのだけれど






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この段落のような淋しさを
私に思い出させたあなたには
罰として悪運をさしあげます
忘れることではじめて問うことができる その日まで
生き延びて頂くために