蝶々

           
                   (あるいは迂回することばについて)


なにひとつたぐれない
晴れた午後に
下校のこどもたちが
うたいながら通り過ぎる
ところで
蝶々が
さくらの花にとまったところなんて
あなたは見たことがあります?
とおくなったりちかくなったり
音域をはずれていく声のように
日常の死のまわりを
低徊し
飛翔して
ありえない蝶が
ありえない桜にとまることなんて




 なにひとつたぐれない
 晴れた午後に
 とまり
 あそびながら
 気づけば
 不透明に入り組んだ
 日常の扉を押して
 花咲く梢に偶然
 たどりつくことがある
 信じられます?
 ふりむいて
 問いかけたときには
 密生する
 花に抱かれてもうわからない




          ありえない桜とともに
          日の光に暴かれて
          今度こそ和解
          すればいい
          すべての悪意の抜け落ちる
          この感覚はおそらく
          絶望に近い





 (反歌) 
     音域をはずれ戻れぬメビウスの蝶々は桜に遊べやとまれ