夜を歩く



何のへんてつも無い住宅地の
塀の終わりにある
のうぜんかずら
たくさんの花が
今朝の風雨で地面に落ちている
その橙色に



夏の闇の底を
裸足で歩いた記憶が蘇る



柔らかく横たわるものの腹を踏みつけて



声のない産声と



声のない断末魔の悲鳴が交錯するような




誰にも許しを請うことが許されないような




物は名付けなくても物であるその場所を




あなたも知っているでしょう?



湧き上がる嗚咽をこらえながら



柔らかいものを踏みにじりつつ



月の光の照らす冷たい踊り場にたどりつく



それはまぼろしなのだけれど



そのためだけに



どれだけ歩いてきた窪地を惨憺たるものにしてもかまわないと思った



やがて記憶は折りたたまれて



他人の朝から別の新しい朝へ



更新されながら運ばれていった



明るい服を選んで



あの夜を連れて