地下鉄にて


墨田区生まれの知人は
東京を思い描く時は
川とお濠が目印と
言ってたっけ


ずっと東京の西側で育ってきた私の
脳内東京の目印は路線図しかない
  JRの円と貫く直線
  円の端一点から引かれる私鉄沿線
  内部を巡りながら
  円を分割する地下鉄
円の周辺に住まって
何千回円の内部に通おうと
私にとって東京は
行って帰る場所でしかないということだ


私にとって地下鉄とは
丸の内・銀座・千代田・日比谷・東西と都営線
線と線との交点を円の内部に配置して
私の中の東京地図は円を飲み込んで浮上する
魚の形に広がっている
西向く頭ははっきりとして
尾びれの東と背びれの北は曖昧にぼやけていて


それでも今まで本など読みながら
自分の位置に安心しきって
暗い胎内を
運ばれてきた


やっと最近脳内地図に追加された
南北線大江戸線に乗ると
私はもう速度に身を預けることもできず
そわそわと駅名を確認してしまう
交点と交点は重ならず
円の中の絡みあう線はどんどん解れていき
魚の輪郭がふるえ
尾びれ背びれがゆっくりと伸びあがって泳ぎ始める