魔術師2


こまかく畳まれた紙の表面を読んでいる
エピソードの度に今まで読んできた部分が返されて
裏面になるかんじ
読み替えて読み替えて
真理は多面体の一番奥に畳まれる




『魔術師』J・ファウルズ 河出文庫
恋人と別れたイギリス人の主人公はギリシャの島に教師として赴任し、そこで出会った老人の語りと仕掛けに引き寄せられ、西欧の歴史と思想と現実を引き回されます。読者とともに


(これから読む人は回避してください)











一神教の父権主義と戦争 対 ギリシャ的なもの
美と所有欲
(植民地)支配と搾取
実存と信仰 、確信について
真理と受容
自由の定義
心理分析とオカルティズム
結社と秘伝
仮面、観客なき演劇
魔術師になるとは
欲望すらその手前にある名付け得ぬもの
等等等




結末は開かれています。
主人公=美と知と自らを愛する、権威に反抗的でいながら宗主国的な青年(文学的とも言う)は、最後まで騙された という事象をパワーゲームに持ち込もうとする程、ある意味打たれ強いのですが(言葉とは自身を守る為に発達するものでもあるから)
彼が島である個々、実存的な自由を
遂に受容するようになったのかどうか
巧緻な論理の糸は最後まで途切れない
激しい痛みと切なさと驚きを伴う恋愛小説であり 成長物語であり
その他でもあります。



訳者は小笠原豊樹岩田宏
控えめに言って最高ってこういうことかも。