なにがきこえているの?



ことばにとても躓いてしまった後、今にして思えば役に立ってくれた
と思う本たち。
私のような馬鹿はそうそういないと思うけれど、参考に。



アインシュタインの夢」  アラン・ライトマン


物理学者であるライトマンの描いた、相対性理論完成間近のアインシュタイン
夜な夜な夢に見たかもしれない、さまざまな時間の世界。 たとえば
なにかに衝突すると流れを変える時間の世界や、中心に近づくほどゆっくり流れ、
中心では静止する時間の世界。 時間を信仰する世界や、時の経過とともに秩序
が増していく世界、そして時間の、世界の終わりに人はどうするか。
どの世界も淡々と街中に暮らす人々の日常が描かれます。
たくさんの夢のうちひとつに、現在のわたしたちの世界が描かれていますが
他の夢の世界と変わらない驚きに、紛れているということ。
アインシュタインが来日したときに、京都の知恩院に行き、鐘の中に入ったという話も
この本で知りました。鐘の中心では周囲の音に打ち消されて音が小さくなるはずだと
考え、確かめる為だったそうです。



「迷路のなかで」  ロブ・グリエ


内容を語るような読み方はできない というか、要約してしまうと一本線になってしま
って全く読むことにならないような本です。
一頁前に出てきた記述が、もう一度変奏されて、ディレイみたいに情景が交じり合う
複数の私の視界が前おきなく重なる 殆ど音楽みたいに。



「三冊子」


俳句も連歌もいまだにわかっていないけれど、読むことがあかるい本。
ここに書かれている、ことばの追いかた たどりかた、放しかた、放しながら光だけ
とどめるしかた
飛び石のわたり方 そしてあるきかた。

師のいはく、たとへば歌仙は三十六歩なり。一歩もあとに帰る心なし。行にしたがひ、
心の改るは、たゞ先へ行心なれば也


この三冊は、こころの問題を解決してくれる本ではありません。
(そういう本は他にあるでしょう。)
ただ、つぎつぎと開かれる窓と それを見る自分の目をどうしても許せないときに
必要なのは窓から見えるものではなくて、なにが聞こえているか ということを
言ってくれたと思います。
なにを聞くかではなくて、聞こえているか。


言うことは容易いの。でもとても長くそれにかけて過ごしてしまいました。
後悔なんてないけど。





(おまけ) むかし、心に影響を受けたと思う本 一冊


弱いから、好き。

弱いから、好き。


流行にはとても狭い興味しかなかったのですが、ハイファッションのエッセイの
頁をいつも最初に読んでいました。
独身者の、決して孤独を怖れない考え方であり、自分に真似ができるとは思えなかった
けれど、弱さを含むエレガンス(ファッションや資本関係なく)はアンチテーゼであり、
性差や家族観を越えるとても強靭な思想になる得る というのを驚いて眺めたのを思い出します。


https://this.kiji.is/228340726351463926


本も絶版みたい。いま、みんな読むといいのに。