「したがって、こういえるだろうと思うんです。わたし自身の歴史的位置というのは、
前衛の中の後衛だ、と。前衛であるということは、何が死んだのかを知っていると
いうことです。後衛であるということは、死んだものをなお愛しているということです。
わたしは、物語をつくるものロマネスクを愛しています。しかしわたしは、物語ロマンが死んだという
ことを知っているのです。まあ、わたしの書くものの占めている場所は、そういった
ところですね。」

                               ロラン・バルト(TVインタビュー)

人間というのはなんと不可思議な存在だろう。極めて物理的な存在でありながら、やはり
自然の一部であり、容れ物である身体に比べて、精神活動は超自然に近い。現実的であろ
うとする精神は、常に矛盾の間で引き裂かれつつも、その微妙なバランスの取れた小さな
一点を縫うようにして未来へ向かおうとする。


                               恩田陸  『ネクロポリス