無題



氷の粒でできた
破線を指でなぞっていたら いつしか
水の中を風が吹き始め
4×7=28


霧のように漂う雨
行き来する雨



人はまばらで ふと傘を
閉じたり ひらいたり


すこし暗い
明大前から笹塚
笹塚から幡ヶ谷まで


座席に凭たれたまま
駅ごとに目をあげて
チェロのケースを抱えたひとを
もう三人 見ました


「いま」はもう
底から
煙るような雨に溶けていき
跡形もなくわたしはわすれてしまうだろうけれど



この柔らかく細い雨を
一生の記憶にとどめておく人も
街のどこかにいるような気がして


日が落ちれば 夜は
どんな縛めからも
しっとりと流れ落ちる
春 とは言わない


それを 音楽と知らなかった
その頃の話をしよう
そんな約束はしていないけれど
そんな約束をして
忘れてしまった二人のように
全く違う話をしよう


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