うつくしいもの


繊細さがうつくしかったものが、その繊細さによって損なわれてしまうのは
幼い頃から知っていた
強さがうつくしかったものは その強さによって損なわれ
どちらも避けようとする その知恵が 紙屑よりつまらないものになる
そういうものも 何度も見たことがあるような気がして




それらは うつくしさ という言葉で壊れてしまう すべて





それでも世界への憧憬 としかいいようのないものがあって
うつくしさ というより単に趣味に合う というだけのもの と言われても 
私のものとして持つことはないそれらに向ける憧れは
誰にも奪うことのできないものです きっと




永遠未満の淡い光のようなものであるのに 
なにがあっても 私自身ですら
壊すことができませんでした




エピローグ


室尾犀星は、「室尾犀星全詩集」で「神」とか「永遠」とかいう言葉を捨てたと聞く。
私はそれを拾つて、この詩人の霊のために「永遠」という言葉を出来るだけ多く使つて
一文を草してみた。

         西脇順三郎『えてるにたす』