メモ2

誰にでも自分のお気に入りの酒がある。私は実在するということのうちにすでに十分な酔いを見出す。自分を感じることに酔い、彷徨し、まっすぐ歩いてゆく。時間になれば、みんなと同じように会社に戻る。時間がきてなければ、河のところまで行って、まるで世界全体を眺めるかのように河を眺める。私は同じだ。そしてこれらすべての裏側に、私の空があって、私はひそかにその星座となってちりばめられている。私の無限をそこにもっているのだ。

私はときどき自分に言ってきかせてみる。ドウラドーレス街から出て行くことはけっしてないだろう、と。こうしてひとたび書いてみると、それはもう永遠のことのように思われる。

私は旅をした。ただそれだけのことだ。旅をするのに数カ月も数日も要さなかった。いや、いかなる時間も費やさなかったと説明する必要はなかろう。私はもちろん時のうちを旅したのだ。しかし、時を一時間とか一日とか一カ月と数えるような、時のこちら側を旅したのではない。私が旅したのは向こう側なのだ。


フェルナンド・ペソア「不穏の書、断章」 澤田直



旅をしてみたい。そんな静かな旅を。