使われない字


もう全然見なくなりましたが、新入社員の頃、私の会社は稟議書や金額の大きい見積書などは
和文タイプライターを使っていました。一つ一つ文字盤から文字を見つけて合わせてガシャン
と打つやつ。最初はガシャンからガシャンまで1分以上かかることもざらでした。先輩が途切
れなくガシャンガシャンと打っているのを見て、「こんな風に打つ日がいつか私にもくるのだ
ろうか?」と思ったものです。結局、その日が来る前に電算化の波が押し寄せてすべてパソコ
ンで済むようになりました。


日本語の文字は数が膨大ですから、英文タイプと違って和文タイプは活字を入れ替えることが
できるようになっています。
活字は木の箱にぎっしりと入っていて、使用度の高い字が取り易い場所を占めます。


私の職場は建設会社だったので、現場名や住所などで滅多にない字が使われることがありまし
た。 字(あざ)なんて難読字の宝庫です。
たとえば 「㫪」。 春の異体字 のようですが 「うすづく」と読みます。姫路にこの名のつく峠が
ありました。鳥取には 㫪米神社と書いて「つくよね神社」と読むところもあるそうなので、うすづく
は臼づくで春(新春)ってことなのかしら? などと思いました。 「瀊」という地名もありました。
「さかのぼり」と読んだ筈。なにかひらたいものがさかのぼるのか。


目を皿のようにしても字が見つからなくて、先輩に泣き付くと、「はい。これ。」と簡単に指差さ
れたことが何度もあります。意外と字画の少ないものの方がなかなか見つからなかったりして。
あの活字箱はどうなっただろう?とたまに思います。どの活字も同じように暗い場所で眠っている
でしょうか。




JIS第4水準漢字一覧表【全2436字】(JIS X 0213:2004) - fragment.database.