風の踊り場


丘の中腹の小さな梅林を過ぎて暫く下りると
意識の底に沈んでいた蜜のような梅の香りが
突然汐の香りに置き換わる地点がある。



そこで目をあげて先程まで見えていた海を坂下の踏切の
先に探すのは観光客で、腕時計に目をおとし、足を速める
のは通勤する人。
風の踊り場は段落によく似た働きをする。
それまで空中を歩いていた人が、靴裏に固さを感じ
小さくリセットされるなにかがあって
小さな目標が手前にあらわれる。自分は続く 続いたまま。



(消失の頁に常に今に呼び寄せるために書き込まれた
  ものの総体が自分でしょうか?)


           
疎ましいと思ったり凭れかかったりしながら
自己愛は、水位を保って
自分を続けるための物語を作ろうとする
架空のなにかに思いをはせるには
必ず必要になるけれど、
あると信じているときは忘れている。
遠い背後から 続ける限り 誤差はひろがる。