食卓


したわしくて懐かしい石の肌に
左手の指をあずけて
迷いながらめぐっていく夢の隘路は
いくつめかの曲がり角で突然
海の青にはばまれる
立ちすくみ
胸の内に 冷たい金属が差し込まれたかと思うと
突堤の先にひき出され
引き上げられた船の暖かな飛沫を
浴びながらながめる午後
きらめく光 ワイヤーが鳴って
理由のない涙が零れ
(なにもかもがこんなにも計りがたい)
一瞬が近づいて



目覚めれば沈む錘り
(くらべてはならない) と遠く思いながら
植物に水をやり
我にかえったふりをして
白い氷の皿の上に
内海に揺すられていた物云わぬいきものたちを暴く
みえないところで流された血と
ひっかくような金属音
暴力的な時間がとおりすぎていった後に
のこされた充足
灯りが消され
拭き取られた食卓の上には
いつまでも汐のかおりが満ちている