秋から遠ざかる


一日


南風が吹いていた 夜には雨になるらしい
なにもすることがなくなってしまったので
川を見に行く
夢の中でいつも
音も無く氾濫して足を濡らす
見えない小川を確認しに



実際の野川は草が刈られて
川面が見えていた
10メートルおきに鷺が
彫像のように立っているのを
目の端で確認しながら歩いていく
5羽目が佇む小さな橋の上まで来ると
下流からの南風
堆積した草の発酵する匂いと
遠い野焼きのけむりの匂い
水を含んだ



一生見続ける夢のために
あと何度ここに通うのだろう?
夢の輪郭を
補強するだけの
通うことにしか
意味の無い行為



不意に一羽が飛び立って
頭上を上流へと超えていった
一羽、もう一羽
次々に下流から
渡っていく鳥を呆然と見送る
あなた達って連れ立って塒に帰るんだね



幕が引かれたように夜が降りてくる
戻る必要がある





二日


登場人物は架空の存在であり
実在の人物とはいかなる関わりもない



暖かい雨は
冷たい雨に変わり
境界から
街を冷やす



架空という言葉がずいぶんと不埒にきこえますね
封印した箱を深く沈めたあとの
安息の月曜日
いかなる関わりも
ないという欺瞞


黒い魚影がよぎる
鳥の来ない
朝の多摩川だけが
濾過したような表情で
曇り空を見上げる





三日


視線が水をくぐると言った人がいた
翻弄された視線も
淀んだ水をくぐり
安定すると




くりかえしながら
逸れていけても
既に囲い込まれている
その視線で
架空ではなく埋設された
線図を探す




霜月の総武線
外濠にカモメが来ていた
囲い込まれた湾から
入り組んだどこの水路を辿って
やって来たのだろう?
冬を漂った後は
どこに連れ立って
帰るつもりだろう?