窪の夜


地下の店内は
酔いはぐれた人の気配に満ちる
漂う木屑のような
埃っぽいざわめきと
散らばった音階
つんざくものと
打ち沈むもの
ブラックの中の
オレンジ
生暖かい帳に覆われて
それらいびつな運動のすべてが
実は世界の裏側でバランスをとられてしまっているような



祝祭はいつまでも続く
夜の窪みで



流れるものは許し難いのに
留まって立ってしまうものには
とても耐えられない
だからこんなに
内側に髪も触れないほど
いつのまにか
取り込まれてしまうのかな
傾いた椅子にこしかけて
誰かがテーブルに忘れた本を
めくってみたけれど
それはなんて遠い物語だったろう



何度目をあげても
同じ灯りが滲む
海の底から見上げているようだ
(これは夢じゃない)
水滴のように
今日を伝わり
私を通過し
夜の底に落ちていったもの
何一つとして有効でなかったものたちが
足元に沈んでいる
あのときも今日も
辿り着く前に
音楽もことばも
流れるもの全部憎みなおして
触みにじる全てを刻印するみたいに
夜の舗道を駆けて行けばよかったのかな