ふわひゃら


以前、女友達と話していて何故か声の印象の話題になったことがあります。
彼女が言うには私の声は「ふわふわひゃらひゃら」しているのだそうです。
がっかり。


思い当たることはあって私には妹がいますが彼女の話し方は確かに
「ふわふわひゃらひゃら」と言えなくもない。
電話でよく間違われるので私もあんな話し方なんだろうと思います。
彼女と違うのは私は非常に間の悪い時に間の悪いことを言ってしまうこと。



以前の勤め先の上司というかボスは3倍速くらいせっかちな、関西弁でいう
「いらち」な人で、しかも聞き取れない言葉を言う人でした。
来客と話す時や常務会では普通に話すので、これは戦略的(何の?)なもの
かも知れません。
わからないことをパパパッと言い捨てて風のように去るので言われた方は
とても困惑します。しかも聞き返すと怒るという。
入社当初は「これは仕事以前の問題ではないか?」と思いました。しかも
次長や課長達は「僕達も聞き取れないから頑張って慣れて通訳してね。」
などと言い、今までわからなくても全然平気であったという不思議さ。
上野駅!」と言い捨てたのを真顔で「ルメラ山羊ってなんですか?」
と聞き返した日から10年間、私の聞き取り能力と反射神経は向上し、
面と向かって話されたことは確実に理解できるようになりました。
彼が突然立ち上がって出かける時はたとえトイレであろうと私も立ち上がり
見送ります。傍から見ると忠実な秘書の最敬礼みたいな感じなのですが、
出がけの一言を聞き漏らして面倒なことになりたくないという防衛的なもの
です。社内の力学のようなものが少しわかってくると
この上司の偏屈を装う意味も少しだけわかるような気がしてきました。



ところで私の「ふわふわひゃらひゃら」の方は聞き取りスキル向上の割には
あまり変わらなかったようです。
私たちの会話は同僚に言わせると「とても間が変」で「かけあい漫才のよう」
で、ただ気に入らないと男性部下の椅子を後ろから蹴っ飛ばす
ボスの怖いイメージを「相当緩和するのには役立っていた」のだそうです。
ダーーっとするよくわからない話にかぶさるように私がひゃらひゃらと
「いやです」「捨てました」と入れる合いの手(部下がきっちり意志表示
をすることを求めるタイプなのです)とか、突然の「銀座の地図持ってきて!!
(早口すぎて意味不明)」を「キングオブクリムゾン?」と聞き返したりした
様はよく忘年会の二次会の物真似ネタにされていました。
会社を辞める際に挨拶まわりをした時、人事の部長は「君を面接で見たときすぐ
○○さんの秘書にいいとピンときたんだよね」と言いました。
迷惑な話だと思いましたが、それまで1年ローテーションだったらしいあの席に
10年もいたということは、ひょっとして相性が良かったのでしょうか。
人事ってなんだかこわい。


先日、部署の同窓会があって、久々にボスと再会しました。思い出話などに
「話がはずみ」、帰り道で同僚達はみな口々に「重役も年を取ってまるく
なったね。話し方も穏やかで聞き取りやすくなった。はじめてあんなに話した」
と言っていましたが、それは私達がもう社員ではなくお客さんだからです。
言わなかったけど。


ちなみに最初に書いた友達は声だけ聞くと「すごく冷静で出来る人」な印象なのです。
実際出来る人ではあるのですが、私は彼女と高校時代からいろいろな所に出かけて、
ことごとく道に迷ってきました。
池袋から立教大学に辿り着けなかったり、鎌倉の源氏山で遭難するんじゃないかと
言うような信じがたい経験をしています。
これは私が彼女の声の印象に頼りきり、全ての道の選択をまかせたのがいけなかっ
たのです。
彼女が方向音痴なのではないかと気付いたのは、就職内定の健康診断の際、ビルの
クリニックで検尿するように言われ、トイレに入ったのはいいけれど、クリニック
への帰り道がわからなくなり、検尿コップを持ったまま地下街に出てしまったとい
う話を聞いたときです。
お互いに一応やっていけててよかったねって話です。