水無月の総武線


気がかりなことを思い出そうとしていたら
緑にいろどられた駅は通り過ぎてしまった
おかしいな
私はあの駅で降りて
だれかに会う筈だったような気がするのに



よつやいちがやいいだはしすいどうはしおちゃのみず
水の匂いのする名の駅を通り過ぎる
かつて通ったことのある風景だ
水位の下がった不快な川に沿って
座っていた人もつり革につかまっていた人も
浅い眠りにおちいっていく



  (網膜の裏を一瞬よぎる鳥の羽先のきらめきはなく
   思いがけない大きな魚が白い腹をみせて浮かび上がり)



冷たい雨を待ち望んでいる
見えない小川が氾濫して
足を濡らし
すべてを藻のように軽やかに
押し流せばいい



  (天井の隅に数匹の蝙蝠が張り付いている)