水の月



流しや洗濯で
手をなでていく水のつめたさが
心地よくなって



お酒よりも珈琲よりも
水がおいしい



この月の間だけ
健やかでも自然でもなく
味覚から遠くなります



表面張力を破って
瑕疵をひとつ 見繕いつつ
まろやかな
口語の縁を下る



その縁に口をつけて
ふくむ冷たさは
すぐに忘れてしまえる
静かさに満ちている







それが過去となると
もう復元はできないのです と
言われた気がして



夜の雨を吸った
小石まじりの砂岩の道を
サクサクと歩く



一歩ごと
たちこめる
水の香りには
記憶がすこしだけ



速度の中で出会う いつも 
それでも
それに連なることばしか
持つことはできない  
と言ってみる