夜のスケッチ



ひとつ
自分の中に小さな像を結ぶと
現実と信じた場所にひとつ
そのかたちの穴があく
その空白を
またたく間に夜がならして




永遠はいつもそんな風につくり出されて




わたしたちが夜 と呼ぶ場所
表明しなければいきていけない病が
蔓延するスクリーンに
人工の光源から放たれる光が
むすうの錯綜した線を描く
懐かしい光をひとつ 持とうとして
どうして生きることを引き受けたのだろうね
照射しあい打消しあう光のさなかを
くぐりぬけ ひとりひとり
色だけが浮かぶ音のない川辺へと下りて行く
背後に立ち上がる夥しい光の痕跡を
都市と呼ぶひともいた




都市の一画
人工の光のざわめきが
いつの間にか消えていき
水音だけを聴いていたい朝を通り過ぎれば
無限遠からの光に暴かれて
風化した永遠たちが揺れる
弱い日がさす




高梨豊 「光のフィールドノート」国立近代美術館 2009年