掌に乗る


遠さがやってくる(近づく)ということはある けれど
近さは遠ざからない
ふっと 行方不明になる


きっと近さ というのは
掌に乗るくらい、小さくて軽い生き物なのだろう
と思って



どこかで宇宙基地が目ざめている
どこかで人種差別された家が倒壊音をあげている
そのとき 旅行者の手のひらに
小さな鹿が ふわりと乗ってきて
たなごころの上を駆けまわった




「多重底生活 ー アメリカ」 長谷川龍生

世界中で たった一頭しかいない
てのひらの上にのる小さいバンビの肌ざわり




「マドンナ・ブルーに席をあけて」

ふと、これらのことばを思い出しました。
いえ きっとこれらのことばが先にどこかにあって
それで、近さについて思いついたに違いないのです。


手ざわりだけを、微かに覚えている
そんなことがあるだろうか。