だれかのオブジェ





本を読みながら電車に揺られて4ヶ月ぶりに海を見ました。


行きは、ポーランド郵便局防衛戦の砲弾が飛び交う中、死傷者の詰め込まれた
窓のない郵便物倉庫の部屋で、亡き母の情人であり推定上の父である伯父ヤン
と主人公が、瀕死のもう一人にも無理やりトランプを持たせて、この状況下で
平和な時代に生前の母と興じたスカートというゲームをするところまで読み、


帰りは、投降し、太鼓を守るために推定上の父を防郷団員に売って逃げ延びた
主人公(と本人は言っている)が、その後、元神学生で正気を失って誰の葬儀
にもお悔やみを述べるために立ち合うシュガー・レオに連れられて、
父(ヤン)の銃殺された墓地近くの塀の空き地で、スペードの7のカードを
拾い上げるところまでを読みました。





武満徹『夢の引用』に映画のことが載っていたつながりで、先週からグラスの
ブリキの太鼓』を読んでいます。

                                                            
昔読んだときは映画の印象が生々しかったせいもあって、数ページ読んでは溜
息をつき、食欲不振になったりしましたが、今回、読み返してみると意外なほ
ど読むことができることに驚きました。年をとったからかしら。
異様で尊大な主人公の自己諧謔と詩心あふれる語りなのですが
出会った普通のひとびと 肉親や隣人、食料品屋、郵便局員、玩具屋、トラン
ペット奏者、 等々に、現実がどうかっきりと濃い光と影を落としたのか
どんな細部も(自らの罪も)決して忘れない という感じがして


悲しさから最も遠い場所からダイレクトに悲しみに手を差し込んでくるような
まぎれもなくレクイエムを読んでいる という気がしています。