その限りにおいて


曲がり角をどこかで間違えて
「ここから先 すべて広場」の標識を過ぎ
街の余白に出たので
休息をしました
ここを出たら
もう次の 知らない街角が見えている



余白のはなしをしましょう
意味から零れおちる
とても無力なものだけで
はなしを



知らない湖沼地帯を渡りついでいった鳥の
攪拌される前の着水の軌跡や
開いた窓から通り過ぎる雨を 吹き込む風とともに
招き入れた午後のこと
微かな光と葉の翳のおちるのを感じながら
どこまでも浅い眠りを流れていくと
ゆっくりと沈んでいく美しい石を見たこと



そらごと と言われても
それだけが全てです と
言えたなら 信じられたなら
間違えた角を曲がり続けてきた
その限りにおいてだけでも



あなたも見たことがあるでしょう?
砂しかない場所を風に吹かれて移動する枯れ草のボール
声のない悲鳴と産声の交錯する夜からも脱落した道
厚い苔色の氷が闇の中でごろりと動いて
あるいは 静けさすら消去されたチューブの中の無音



次の街角だけはもう見えているけれど
その先はみえない
それでも間違えて その限りにおいて
雨より細かい水に包まれることがある
雲の微かな切れ目の青に印字されたものを
このさきも 風景に重ねるために
何度も目をあげる仕草をする