月のない夜の釦



音 がすると
音とともに
ちいさく
空間がひらく



波紋のような
紙の箱 のような それを
見上げている わたし の位置 も



再び静けさが 戻ってきたとき
音は消えたのではなく
空間が閉じたわけでもなく
おそらく わたしたちの方が
その場から
立ち去っているのです



立ち去る先へと 音を配列して
ひととき こころの中にめぐらせる
この 回廊を
音楽と 呼んでみる? あるいは景色 ものがたり と



月 が見えないと
夜は梳かされて
低地の方へと
流れていく



駅前の無人のロータリーの 灯りの下で
バッタの跳ねるような音がします
立ち止まって
もうなにも要らなくて
ただ とても手が欲しくなる
いまは そんな夜