雨雲を待ち伏せする



支線の丘から このあいだまで赤土の山だった
作られた街を抜けて 多摩川を渡り
空の見える広さへ
野川を越え 何本かの銀杏や欅の大木を過ぎて
かつて木造の平屋が軒を連ねていた場所から
水色のモスクの屋根を経て
空とも別れ
電車は地下へ潜る



(いくつかの鳴らない音を持っています)



鳴らない筈の音は
視えない場所で鳴る
悲劇よりは破綻
きれぎれの霊園の芝生
断ち切られるものではなくて
少しずつ空間に歪められて
侵食される音
たとえ それが不可能に思えても
あなたも わたしも
より雑然とそれらに囲まれることこそ
必要なのかも知れないのに
奏でては 響かせては すぐそこにあるのに
困ってしまう と かつて言ったもの
「死なないで欲しい」と願うことは
躓く石をまるで選べるかのようで
これは もう回答不要の問いです



水鳥も夜啼く鳥もいない筈なのに
膝の上の白い紙に鳥の影が落ちてきて
滞まりつづけている その斑を
指でそっと押してみると
昨日できたばかりの青痣のように
通過された部分から
空が痛みだす



あなたのことばが わたしにとって
どれほどはりつめて音楽的で
しかも音楽だけを持ち帰ることが
できないようになっているか 
あなたはしらない