俄か



怖ろしいものの残像があるかぎり 目は
花や木々や草をわたる風を
とらえることはない というような絶望を
信じない代わりに
自分への許せなさだけは安全に格納して
信じない未来まで持ち歩く契約をする
明るすぎる見慣れた廃屋と
空木の白い花ばかりどこまでもつづいている生垣が途絶えれば
ふと現れた空き地に入り込み
ジガバチが 低くうなりながら巣をつくるのを いつまでも眺めたりして



絶望 と触れて回避し 希望 と触れては回避して
回遊し続ける とか
否定しながら少しずつ罪の残滓をもちこそう とか
祈りの速度から 永遠に未満でいつづけるには
とてもあちこち壊れてしまっているけれど
この巣穴は乾いてもう以前ほど寒くないね と傍らの犬に言う



それなのに 不意に土の匂いがたって
見えない柳の大樹でもあるかのように
さしわたされた枝をつたわって 翳るものから
落ちてくる そんなふうにこんなものから
なにもかも聴きとってしまってはだめなのに 空



何かに手をのばすことすら 憚られるほど 
みじめになってしまっているのに
最初の一滴が頬にあたれば
もっとどうしようもなく困った人になってしまって
全てがおわるまで立ち去らないで 雨 と足元の草に言う