2014-01-01から1年間の記事一覧
紅色の卵と肉を持つ鮭が生まれた川で死ぬということ
花が落ち路上が濡れて栗の実は私の知らない夏を経てくる
花殻も卵も眠り内側の戸を叩き疲れた子も眠る夜
血を分けたという言葉は時に怖しく業務連絡に近づくメール
先生の云う「由々しきこと」の一匙の可笑しさ遠く遠くまで来た
噴水は時折高く陽光をまぶした声が背後にまわる
影の形に夜は滞まる ほらごらんスープに張ったような月光
街の灯の溶けた夜空が希釈され星に塗れる途中で下りて
呼応する鳥 草 風は行き渡る眠る言葉使い達の街に
目を閉じればぬるくて痛く 開ければそこに止まりつつさまよう炎
ストールの繊維はさみしい首のため去年の秋の空気も含む
迷惑をかけない錯覚などないとわかった人をがっかりさせて
傾いてなお保たれる夕刻の水平などを時折憎む
テキストに入れば僅かに折れまがる光は読むか冬の水面を
関東の空しか知らぬ窓に寄り 浮かべる固有名詞のいくつか
父だろうか日々であろうか妹の眠りの水に浮かぶなにかは
風と光が別の軌道ですれ違う中央分離帯のススキあたりで
人混みを抜けた人から浮かばせる孤立無援の月の写真を (タイムライン)
軒先は声の棲家「捜したよ。」幾千の雨粒に紛れる
サービスという言葉は少しさびしくて紙に包んで持つ砂糖菓子
ほの暗い戸口であげる手が白く艶やかでした遠い小母さん
通過するホームは雲への突堤にベンチは雨の祭壇に似る
桃の実のなかで晩夏の点滴がしたたりおわる午後の静けさ
どの二点も結べば延長線上にあなたも私もいない夜の海
曖昧という文字から不意に一筋の錆色をのせ秋風が吹く
かなしみの手前の水をめぐらせてゆく人あまたいづれのときも
倒立の像はかなたの夕ぐれに隠れ続けた最後のひとり