2014-01-01から1年間の記事一覧

039:鮭(莢)

紅色の卵と肉を持つ鮭が生まれた川で死ぬということ

031:栗(莢)

花が落ち路上が濡れて栗の実は私の知らない夏を経てくる

032:叩(莢)

花殻も卵も眠り内側の戸を叩き疲れた子も眠る夜

033:連絡(莢)

血を分けたという言葉は時に怖しく業務連絡に近づくメール

034:由(莢)

先生の云う「由々しきこと」の一匙の可笑しさ遠く遠くまで来た

030:噴(莢)

噴水は時折高く陽光をまぶした声が背後にまわる

029:スープ(莢)

影の形に夜は滞まる ほらごらんスープに張ったような月光

028:塗(莢)

街の灯の溶けた夜空が希釈され星に塗れる途中で下りて

026:応(莢)

呼応する鳥 草 風は行き渡る眠る言葉使い達の街に

027:炎(莢)

目を閉じればぬるくて痛く 開ければそこに止まりつつさまよう炎

024:維(莢)

ストールの繊維はさみしい首のため去年の秋の空気も含む

025:がっかり(莢)

迷惑をかけない錯覚などないとわかった人をがっかりさせて

023:保(莢)

傾いてなお保たれる夕刻の水平などを時折憎む

021:折(莢)

テキストに入れば僅かに折れまがる光は読むか冬の水面を

022:関東(莢)

関東の空しか知らぬ窓に寄り 浮かべる固有名詞のいくつか

019:妹(莢)

父だろうか日々であろうか妹の眠りの水に浮かぶなにかは

020:央(莢)

風と光が別の軌道ですれ違う中央分離帯のススキあたりで

018:援(莢)

人混みを抜けた人から浮かばせる孤立無援の月の写真を (タイムライン)

016:捜(莢)

軒先は声の棲家「捜したよ。」幾千の雨粒に紛れる

017:サービス(莢)

サービスという言葉は少しさびしくて紙に包んで持つ砂糖菓子

015:艶(莢)

ほの暗い戸口であげる手が白く艶やかでした遠い小母さん

014:壇(莢)

通過するホームは雲への突堤にベンチは雨の祭壇に似る

遠花火

013:実(莢)

桃の実のなかで晩夏の点滴がしたたりおわる午後の静けさ

012:延(莢)

どの二点も結べば延長線上にあなたも私もいない夜の海

011:錆(莢)

曖昧という文字から不意に一筋の錆色をのせ秋風が吹く

009:いずれ(莢)

かなしみの手前の水をめぐらせてゆく人あまたいづれのときも

010:倒(莢)

倒立の像はかなたの夕ぐれに隠れ続けた最後のひとり